Kalita ウェーブドリッパーが登場して以来、円筒型で「お湯を溜めて淹れるドリッパー」が世界中で生み出されるようになりました。
HARIOやKONOは円すい形、KalitaやMelitaは台形と呼ぶように、これらのドリッパーをどう呼ぶかは一般的な呼び方があるわけではありませんが、この手のドリッパーの名称に「フラットボトム」と名付けられることが多いため、本記事ではフラットボトム型のドリッパーと呼んでいきます。
※ウェーブドリッパーが最初に作られたためか、「ウェーブ型」と呼ぶ人もいます
フラットボトム型ドリッパーの特徴
フラットボトム型ドリッパーのほとんどに共通して言えることは、「円すい形ドリッパーよりも保水力が高く、台形ドリッパーよりも抜けがいい」ことです。※SIMPLIFYを除く。SIMPLIFYはまた後でご案内します
台形ドリッパーは底が平たいぶん保水力が高く、初心者でも安定して抽出しやすい構造になっている一方、後味のキレの部分が弱い印象があります。一方で、円すい形ドリッパーは、台形ドリッパーと違い、底面に穴が開いているため、適当に淹れてしまうと、”色のついたお湯”ができかねませんが、きちんと淹れさえすれば、後味のキレのいいコーヒーが楽しめます。
長年、代表的なドリッパーと言えば、この台形か円すい形かの2種類に分類できるものがほとんどでしたが、そこに現れたのがKalita社のウェーブドリッパーです。
Kalita社のウェーブドリッパーは画期的で、円すい形よりも保水力が高く、台形よりも”抜け”がいいためキレのあるコーヒーを淹れられる「バランス型」のドリッパーとして、バリスタ界隈で大きな注目を集めました。
詳しくは後ほど触れますが、基本的にはこのウェーブドリッパーと、そのドリッパーに合わせて使われるウェーブフィルターの影響力は大きく、2023年現在では、(一部例外もありつつも)コーヒー器具メーカーから作られる多くの新作ドリッパーが「フラットボトム型」か「円すい形」のどちらかになっています。
ただ、種類がだんだんと増えてきており、フラットボトム型ドリッパーのそれぞれの違いを把握しづらくなっているのも事実。この記事では、それぞれのドリッパーの違いを構造や味わいに焦点を当てて比較していきます。
今回の抽出の比較条件
コーヒー粉 10g 中細挽き
湯温 95℃
蒸らし 30秒 2投目の注湯時間 1分
※SIMPLIFYを除く
Kalita ウェーブドリッパーの特徴
フラットボトムドリッパーの原型ともなったKalita社のウェーブドリッパー。フラットボトムのドリッパーの購入を検討している方であれば、一度は見たことがあるはず。
円筒型のドリッパーにウェーブフィルターと呼ばれる、ひだの付いたペーパーフィルターをはめて使うドリッパーです。
底面には、Kalitaの台形ドリッパーと同じく3つの穴がありますが、台形ドリッパーと最も違う点が2つ。
まず一つが、ウェーブドリッパーは底面が少し凸型に膨らんでおり、底面が完全にフラットな台形ドリッパーよりも穴にお湯が落ちやすくなっていること。
そして、もうひとつがウェーブフィルターと呼ばれるひだのついたペーパーを使うため、ドリッパーとの間にすき間が生まれ、抽出が速くなっていることです。
これらによって、同社の台形ドリッパーよりも抽出が速く、円すい形ドリッパーよりも湯だまりの良い抽出を作られています。
今後のドリッパー界隈の最新モデルと比較するのであれば、ぜひ一個は持っておいて損がない、フラットボトムドリッパーのベーシックモデルと言えるでしょう。
味わいの特徴
ほかのフラットボトムドリッパーと比べたとき、味わいの特徴としては、まず一番に感じるのは酸味と甘みのバランスの良さです。
ほかのドリッパーのバランスが悪いというわけではなく、特に、ウェーブドリッパーは甘さが際立っており、酸味や食感の強さなど、なにかが突出して感じる印象がありません。
いい意味で、クセのないドリッパーと言えるでしょう。
F70 Flat Bottom Dripperの特徴
F70 Flat Bottom Dripperはあまり知らない方もいらっしゃるかもしれません。アメリカのSAINT ANTHONYというメーカーが作ったドリッパー。メーカーとしては、ドリッパーのメーカーというより、タンパーやディストリビューターなど各種バリスタグッズのメーカーとして知られているかもしれません。
ドリッパーの傾斜は今回比較用に用意したドリッパーのなかでも最も開いています。つまり、コーヒー粉が横に広がり、抽出する際のコーヒー粉の層(いわゆる濾過層)が薄くなるということです。
また、底面の穴は1つのため、かなり濃そうに見えますが、穴のサイズは少し大きめ。そして、ウェーブドリッパーのように底面に凸が複数ついており、お湯抜けがいいように作られています。
味わいの特徴
今回飲み比べたフラットボトムドリッパーの中では食感の余韻が一番ショートで、台形ドリッパーに近い味わいになっています。奥行きがあって伸びるというより、酸味や風味が横に広がる印象です。
たとえるなら、ドリップなどの透過式よりフレンチプレスなどの浸漬式に近いイメージです。他のドリッパーより傾斜が広いことで、濾過層が短いため、コーヒー粉を通りぬけるというより、コーヒー粉にお湯がつかるようになっているのかもしれません。
TIMEMORE B75ドリッパーの特徴
TIMEMOREは手挽きミルの評判がいいため、ご存じの方も多いのではないでしょうか。ドリッパーはこのフラットボトム型と円すい形の2つのタイプを作っています。
フラットボトム型は、Kalitaのウェーブドリッパーよりも若干傾斜が開いていて、SAINT ANTHONYよりも閉じているという中間型です。
底面の穴は、SIMPLIFYを除けば最も広くあいており、底面に穴が開いているというより、穴のすき間に直線の枠があり、そこでペーパーを支えているといった方が正しいかもしれません。
味わいの特徴
味わいの特徴としては、今回一番抽出に時間がかかったこともあり、アタックの強さを一番感じました。そして、そのぶん後味もショートな印象です。
フラットボトム型はアタックが優しい印象のドリッパーが多いですが、そのなかでは一番強さを感じるドリッパーと言えるでしょう。
Kalitaのウェーブドリッパーより傾斜が開いている(コーヒー粉の濾過槽が低い)にもかかわらず、抽出に最も時間がかかった理由は、おそらく底面の穴が広いうえに、ほかのフラットボトム型ドリッパーに対して側面にもリブ(凹凸のひだ)がついているため、コーヒー粉のガスが抜けて、底面に粉がたまって湯抜けが悪くなったためだと思われます。
浅煎りと深煎りを見比べるとわかりやすいですが、浅煎りのコーヒーは深煎りのコーヒーに比べて炭酸ガスが少ないため、お湯をかけても膨らみづらく、底面に粉がたまりやすい傾向にあります。
今回も、おそらくガスが抜けたことによって、粉が底にたまり、湯の通り抜けがゆっくりになったために、一番力強い味わいになったのではないかと思われます。
OREA V3 Brewerの特徴
OREA V3 Brewerはロンドン発のブランドで、最近では世界大会でも使われており、注目を集めているフラットボトム型ドリッパーのひとつです。
形状としては一番ミニマルで、傾斜自体はKalitaのウェーブドリッパーとほぼ同じ角度になっています。
一方で、底面の穴の広さはウェーブドリッパーよりも広く、TIMEMOREよりも少し狭い程度。形状だけでも、おそらく、ウェーブドリッパーよりも比較的すっきりとした味わいになるだろうことが予想されます。
味わいの特徴
実際に飲んでみて、やはり形から予想されるように、アタックの印象は一番柔らかく、円すい形ドリッパーのようにキレのいい味わいをしています。
今回用意したドリッパーのなかでも抽出タイムが最も早く、フラットボトム型ドリッパーではありますが、円すい形に近いイメージで淹れることのできるドリッパーと言えるでしょう。
SIMPLIFY the Brewerの特徴
SIMPLIFY the Brewerをフラットボトム型のドリッパーと定義するかは難しかったのですが、「ウェーブフィルターを使っていること」「円筒型であること」をフラットボトム型の定義とするなら外せないと感じ、今回の比較に入れさせていただきました。
SIMPLIFY the Brewer(以下SIMPLIFY)は、BATHTUB COFFFEEが開発したドリッパーで、クラウドファンディングで多くの応援を受けて作られたドリッパーです。
ウェーブフィルターを使うにもかかわらず、なぜ、フラットボトム型ドリッパーとして紹介するのを迷ったかというと、ドリップのコンセプトがほかのフラットボトム型とは全く異なるからです。
公式サイトのレシピを見てみましょう。
- SIMPLIFY the Brewerにペーパーフィルターをセットし、ペーパー全体にお湯をかけリンスします(面倒であれば、もちろんそのままでも問題ありません)
- 15gの極細挽きのコーヒーの中心にお湯を注ぎます(円は描きません)
- 30秒かけて230gまで注いだら、注ぐのをやめます
- 1分から1分半待ちます
これを見るとわかるように、SIMPLIFYは蒸らしなどを行わない一投出しのドリッパーとなっています。一投出しとして有名なのは、台形型のMelita1×1ドリッパーなどがありますが、フラットボトム型で作られたのはこれが初めてです。
誰でも、簡単に淹れられるドリッパーをうたっているだけあって、極細のコーヒー粉を用意したら、あとは上からお湯を30秒注ぐだけ。お湯を回しかけたりする必要もないため、だれでも同じ味を再現できます。
味わいの特徴
味わいの特徴としては極細挽きの粉を使っているだけあって、一番しっかりとした食感をしています。簡単に言えば、飲みごたえがあります。
一方で、一気にお湯をかける一投出しに特有というか、すごくコンプレックスな味わいというより、そのコーヒー豆が持っている特徴がパンと出ており、シンプルな味わいという印象です。
アタックの強さなどの印象は異なるものの、透過式より浸漬式に近い余韻の短さはF70 Flat Bottom Dripperに似ているかもしれません。家庭で極細挽きの粉を用意するという手間はあるものの、それさえクリアすればだれでもこの味が出せるのは、優れたドリッパーだと言えるでしょう。
まとめ
あくまで「フラットボトム型ドリッパーのなかで」という比較の上でですが、以下にそれぞれのドリッパーの特徴を簡単にまとめてみました。
ウェーブドリッパー 抽出時間 2:10
バランス型で甘さを感じやすい。ベーシックな味わい
F70 Flat Bottom 抽出時間 2:15
奥行きがあるというより、横に広がる。漬け置きに近い
TIMEMORE B75 抽出時間 2:19
アタックの印象が強く、余韻は短め
OREA V3 抽出時間 2:03
円すい形に近いようなキレのある味わい
SIMPLIFY 抽出時間 2:04
ボリュームのある食感。余韻は短め
以上です。
ひとつだけ注釈しておくと、コーヒーの抽出時間はコーヒー豆の焙煎度合いと鮮度によって大きく左右されますので、あくまで目安としてください。
特に、フラットボトム型ドリッパーに使うフィルターはいわゆるウェーブ型のフィルターを使うことが多いのですが、これを安定した状態で広げるのが本当に大変…。
一応、今回の条件では飲み比べように形の安定したフィルターを使いましたが、ドリッパーによっては抽出にペーパーがゆがんできて、味わいが変わるということもありえます。あくまでご参考まで。
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